日本の広がる貧困と格差をいかにして改善するか、
私の考えを述べたいと思います。
@社会保障の拡充、特に一般的な社会サービス、手当・保険制度の充実
社会保障にはいくつかの種類がありますが、生活困難な人に対する
生活保護などの「公的扶助」、障碍者などハンディを背負った人に対して
ハンディを緩和し、生活と社会参加を保障するための「社会福祉」、
これらは制度の対象を限定した社会保障制度です。
いっぽう、社会保険や、保育などの対人社会サービスは、対象を広くとっています。
「生活困難」な人に対象を限定しないという意味で、「一般的」な施策
と言われます。また、これらは、生活の困難を事前に防ぐという意味で
「防貧」施策とも言われます。教育への公費保障や公的住宅供給をも
これに含める考え方もあります。
日本の社会保障は、これらの「防貧」政策にあたる制度・施策が
もともと十分ではありませんでした。代わって企業や家庭が、
その役割を担ってきたのです。今でも、「家族手当」などの形で
公的な児童手当・子ども手当などと別に、企業内福利厚生として
ライフサイクルに合わせた給付・補助を企業が行っている
ケースがありますが、その典型であると思います。
また、都市部で失業した人が「ひとまず実家に身を寄せ
家業や農業を手伝いながら次の生活を考える」という、失業者の
受け入れ先として、家庭が機能していた時代もありました。
しかし、今、長引く不況、終身雇用のゆらぎにより、
企業内福利厚生も縮小の方向にあり、そればかりか非正規雇用の
拡大で、労働者でありながら厚生年金、健康保険、雇用保険など
法廷内福利ともいわれている公的政策から漏れる人が増えています。
核家族化、サラリーマン世帯の増加、年金収入に頼る高齢者の増加で
家庭が失業者を受け入れる力もほとんどなくなっています。
あらためて、公的な一般的社会保障の構築が必要です。
個別の政策、ポイントを述べます
・健康保険、厚生年金、雇用保険の対象の大幅拡充を行い、
正規雇用・非正規雇用間の社会保障の格差をなくす
→原則としてすべての労働者を対象に。中小企業にとって
保険料負担が重圧である現状を踏まえ、公費負担を増やして
保険料を軽減する方策も必要と思います。
・子ども手当、保育サービスの充実、無償教育の充実で、子育ての
経済的負担を軽減し、家計の悪化が子供の成長を脅かさないように保障する
→今後は、終身雇用を継続する企業においても、ライフサイクルに合わせて
手取りが伸びるということは期待しにくくなると思います。公的な
バックアップでその分をカバーしていくことは、少子化対策としても
人材育成の観点からも必要です。
家計がどんなに大変でも、子供が十分な医療を受けられるように子供の医療費無料化
を国の制度として整備していくことが必要です。
・最低保障年金の整備、失業給付の拡充、医療保険・介護保険の負担軽減で
高齢者、失業者、低所得者が生活困難に陥るのを防ぐ
→もっとも「防貧」の色が濃い部分ですが、今日本で増加している年間所得200万円以下の世帯、
貯蓄ゼロの世帯など、なんとか生活が成り立っている人でも、家計の余力が少ないため、
病気や失業にあえばたちまち生活と健康が脅かされる危険にさらされています。
そうした世帯の人に対して適切な手当をすることが必要です。
また、住居の保障という点で、公的住宅の役割も今一度見直すべきと思います。
私たちが求めている国民健康保険の保険料引き下げ、応能負担の徹底もこれに
含まれます。
もちろん、これらの政策と合わせて、公的扶助や社会福祉の改善も必要です。
上記の「防貧」政策と連続性のあるものにして、給付の必要性を速やかに判断し
適切な給付が受けられるものにすることが必要と思います。
社会保障を「セーフティネット」や「トランポリン」と表現するむきも
ありますが、「落ちこぼれた人を救うもの」というニュアンスがあるのが
気になります。社会保障は、落ちこぼれた人を救うというものではなく、
裕福な人にもぎりぎりの生活の人にも、必要に応じてみんなに保障され、
すべての人のためにあらかじめ用意されている「命綱」のような
社会保障こそがいま求められているのだと思います。
最後に、「反貧困ネットワーク」の声明を紹介します
貧困率についての声明
2011年7月20日 反貧困ネットワーク (代表 宇都宮健児)
7月12日、厚労省が相対的貧困率を発表した。全体で16.0%、17歳以下の子どもの場合で15.7%だった。
2009年10月、政権交代直後の厚労省が初めて発表した相対的貧困率は、それぞれ15.7%、14.2%だった。それぞれ0.3%、1.5%の上昇であり、特に子どもの貧困率の上昇幅が著しく、相対的貧困状態にある子どもの数は3年間で約23万人も増加したことになる。
この結果は、厚労省が3年に一度行う国民生活基礎調査(大規模調査)のデータに基づいており、今回発表されたデータは2009年1〜12月の所得に基づいている。前回調査の根拠データは2006年1〜12月だった。
2007年、2008年、2009年に何が起こったかを振り返ってみれば、07年はいわゆる「ネットカフェ難民」問題で始まり、7月には「おにぎり食べたい」という日記を書き残して亡くなった北九州市の52歳男性の餓死事件が発覚し、年間を通じて日雇派遣会社グッドウィルの「データ装備費」問題が世間を賑わした。08年にはリーマンショックに端を発した大量の派遣切りがあり、年末には「年越し派遣村」が誕生した。国民年金1号保険料や国民健康保険料の未納・滞納問題が広く知られるようになったのも、この数年間である。そして09年にはそれらすべてを受けての政権交代があった(子ども手当や公立高校の授業料無償化が始まったのは2010年に入ってからであり、今回のデータには反映されていない)。
この3年間を振り返ると、相対的貧困率の上昇は当然のことのように見えてくる。それだけ、日本社会の痛みや綻びがさまざまな形で噴出した3年間だった。
それでも、子どもの貧困率の上昇幅には驚きを禁じ得ない。これは、とりもなおさず、17歳以下の子どものいる世帯のそれ以外の世帯に対する相対的な低所得化の進行、すなわち高校生以下の子どもを持つ「働き盛り」の親たちの雇用の不安定化・低所得化を示している(その下げ幅が著しいために、ひとり親世帯の相対的貧困率が「改善」してしまうという「逆転現象」すら起こってしまった)。「雇用融解」から「雇用壊滅」(風間直樹)に至る事態が如実に数字として表れた結果だろう。
周知のように、日本は世界一の超少子高齢化社会であり、現役世代およびその子どもたちが十分に力を発揮できる環境整備は、当人たちにとってはもとより、社会全体の持続可能性において喫緊の課題であることは論を俟たない。私たち反貧困ネットワークは、相対的貧困率の削減目標を掲げ、政策提言を行ってきた。もっとも責任の重い政府・自治体をはじめ、NPO・教育関係者・企業・労働組合も、それぞれの立場から、高すぎる子どもの貧困率の改善に取り組んでいかなければならない。
所得の多寡のみによって人々の幸福が測られるわけではない。しかし、相対的貧困状態の放置は、多くの人々の生き死にを左右し、悲惨な状況を生み、ひいては日本社会全体の衰退に直結する。「事態を小さく見せて、とにかく今をやり過ごす」のはもう止めにすべきだと、私たちは今年改めて学んだはずだ。
次の国民生活基礎調査(大規模調査)は、2012年(来年)1〜12月の所得を元に行われ、その結果は2014年半ばに発表される。さらに暗澹たる事態が進まず、好転の兆しが現れる結果にするために、すべての関係者の尽力を求める。