2011年11月07日

「セーフティーネット」よりも「命綱」を!

生活保護受給者が戦後の混乱期の数に近づいたというニュースがありました。
http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011101201000199.html

生活保護費の負担に耐えかねて、自治体の中で「期限付き」化などの
保護を縮小する方向での要望が出されています。
しかし、生活保護の増大は、決して安易に生活保護が受けられるように
なったからではありません。むしろ、生活保護に対する窓口対応は
厳しくなっているように思います。
(一部で言われているように、「議員が一緒に行けばすぐにOKになる」
などということは全くありません)

それでも、これだけ生活保護者が増えるというのは、それだけ生活困窮者が
増えているということです。それを縮小することは、生活困窮者の
命を削るのと等しいことであると言わざるを得ません。

もちろん、生活保護が野放図に増えてよいというわけではありません。
ケースワーカーを増員し、就労支援(働けと追い立てるのではない本来の「支援」)
を強めるとともに、不正受給にも目を配る必要があると思います。

中長期的なこととしては、保護費が増大する原因、保護を受けざるを得なくなる
原因に対しても対策を行う必要があります。
原因とは、セーフティネットである生活保護以前に、生活を守るための公的制度が
本来あるにもかかわらず、それが機能していないということです。


生活保護の中で特に増えているのが、「高齢者」「失業者」です。
本来、これらの人たちのためにまず「公的年金」「雇用保険制度」があるはずなのです。
これらは、生活保護を必要とする状態に陥らないための社会保障、いわば
「落ちた」人のためのネットではなく「落ちない」ための「命綱」となるものです。

しかし、日本の年金制度や雇用保険制度は、実態に合わないところが多く、
必要な給付を受けられないために、結果的に生活保護を受けざるを得ない人が
少なくないのです。

年金制度、特に国民年金は、多くの無年金・低年金の高齢者を生み出して
しまっています。25年(300ヵ月)という長い必要納付月数、高い年金保険料が
年金の納付漏れを生み、無年金、低年金高齢者を生み出しています。
また、基礎年金制度ができる以前の国民年金においては、
「自営業者や農家が老後に備えて自ら積み立てる保険」という位置づけであり
行政も市民も、「国民皆年金のための強制保険」という位置づけを
していなかったという歴史的な経過もあります。
学生への猶予制度、所得に応じた段階的減免制度ができたのも比較的最近です。
(昔の国民年金について、行政がどのように説明していたのか
わかりませんが、『加入は強制、保険料支払いは任意』というような
理解をしていた方もおられたようです)

年金制度は、基礎年金に対してはまず最低必要生計費に応じた最低保証額を
国民年金の基本的給付水準として保障し、公費投入を2分の1以上に増やして、
最低限の生活を保障できる年金を、すべての年金被保険者に保障すること、
収入に応じた年金の納付、必要納付月数の短縮(5~10年に)で、
無年金者をなくすとともに、納付額・年数によっては
国民年金でも最低保障額以上の年金がもらえるようにし、年金の納付に対する
インセンティブを高めることなどの制度改革が必要であると思います。

非正規雇用が増える中で、基礎年金(国民年金)の水準は多くの高齢者の生活が
成り立つかどうかを左右してきます。
スウェーデン式の、報酬比例型年金と公費による最低額保障への一本化が理想的だとは
思いますが、日本の年金制度の成り立ち上、一朝一夕にはいかないと思います。

雇用保険は、全失業者の2割未満しか給付を受けられていないという現状があります。
給付期間が短く、また給付要件、加入要件に厳しい制限があるためです。
非正規雇用では、加入要件でまず排除されているケースも少なくありません。
(現実には、仕事の実態からみれば加入対象にして然るべきケースも多いです)
そのために、失業即生活困窮となってしまいます。

私が相談を受け生活保護につなげたケースでも、夫婦どちらもが非正規雇用で、
二人いっぺんに失業し、幼い子供を抱えて食費も家賃も事欠き、困っておられました。
就職活動に取り組むことを条件に、失業中の間保護を適用することとなりました。

雇用保険で必要な給付が受けられる状態であれば、保護の必要はなかったと思います。

原則としてすべての労働者に雇用保険を適用すること、長期失業者に対する
給付の延長や就職活動支援を強めるなどの制度の改善が必要です。

ハローワークの職員の体制強化、雇用政策の充実ももちろん欠かせないでしょう。
これらの改善は、単に失業者を救済するというだけではありません。
失業するとすぐ生活困窮が待っていれば、労働者は無理してでも
現状にしがみつかざるを得ません。
失業してもすぐには生活に困窮しない、そういう状況であればこそ
雇用の流動化もすすみます。職業訓練や技術・資格の習得に取り組む
余裕も生まれ、労働力の質を高められます。
今の仕事や会社にしがみつかない生き方もできるようになり、
異常な会社主義やサービス残業などもなくしていけると思います。


以前にも書きましたが、私は社会保障についてしばしば語られる
「セーフティネットの強化」や「本当に困っている人に対する重点的支援」
という表現には違和感を感じています。否定はしないが、もっと取り組むところは
あるのではないか、と。
「本当に困っている人」のための「セーフティネットの強化」だけでは
困っている人をさらに追い詰める結果になってしまいます。
日本の経済・社会の閉塞感も乗り越えられないでしょう。

また、社会保障に「多数の負担者=払わされる人」と「少数の受益者=もらう人」
という分断が持ち込まれ、社会保障の受給者への悪意や圧力が強まることも
心配です。


本当に必要なことは、負担能力に応じて全国民で負担し、必要に応じて
誰でもが必要量を受けられる、セーフティネット以前の「命綱」
しっかりと構築することです。
(命綱があっても「落ちて」しまった人のためのセーフティネットの強化そのものには
異存はありません)
日本の社会保障においては、この「命綱」にあたる部分が脆弱であることが
問題であり、それがこの生活保護受給者の急増にも表れていると思います。
posted by 向川まさひで at 23:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして…青い鳥といいます…。 大脇道場さんのblogより、お邪魔しました。
本当に、今の日本の貧富の格差は、目に余りますね…。人間の命の尊厳を踏みにじる恐ろしさを強く感じます。大企業は、非正規雇用労働者を雇用の調整弁の如くに使い棄て、貯めた内部留保なんと約257兆円…。解雇された非正規雇用労働者の皆さんは、寮を追い出され、路頭にまよい、死の淵に追いやられる…。こんな不条理が許されてはなりませんね…。 最後の命綱である生活保護制度も自治体窓口で申請を拒否されたり、著しい給付制限をしたり…、これは、まぎれもなく日本国憲法第25条違反ではないでしょうか? 生活保護受給者数が205万人に達したそうですが、働き盛りの世代の割合が急激に増加しています。やはり、大企業をはじめとする富裕層に応分の負担を求めるべきと考えます。そうしなければ、貧困層が増加の一途を辿り、早晩、社会が崩壊してしまいますよ…。貴blogを拝読させて頂き、共感しましたので、コメントさせて頂きました。お邪魔しました…。
Posted by 青い鳥 at 2011年11月11日 16:40
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