2012年01月07日

映画「山本五十六」を観ました

公開中の映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」を観てきました。

原作者の半藤一利氏は、以前このブログでも紹介しました「あの戦争と日本人」
など、昭和の日本について作家・ジャーナリストとして取材と研究を
されてこられた方です。

20120109214117.jpg映画の感想としては、山本五十六個人を深く掘り下げたというよりは
山本五十六を中心に、戦争に向かっていく日本の姿を丹念に描いた
作品のような気がします。
山本五十六個人の掘り下げとしては、映画の時間の制約もあり、
人物に好悪が強かったり、愛人に弱音を漏らしたりなどの欠点や
人間的なエピソードがいくつか省略されていたりで、少々物足りなさを感じました。

しかし、英雄としてのみ描かれることが多かった山本五十六を、
自分の思いと、職責のはざまで懊悩する人間として描いたのは
これまでにないものであったと思います。

五十六役の役所広司さんの演技もよかったです。

戦史や伝記に詳しい人からは「目新しさがない」という評価もあるようですが、
半藤氏がこれまでの著作で明らかにしてきた、戦前・戦中の日本の
「世論」「マスコミ」という側面を描き、「なぜ戦争になったか」に
ついて描いているところが新鮮だと思います。
軍隊が銃を突きつけ、国民を戦争に駆り立てたのではなく、国民もまた
閉塞をうちやぶり、景気を良くしてほしいという思いで
戦争に希望を持っていたという事実、
部数のために、世論や政治に迎合してきたマスコミの役割。
このあたりは、これまでの戦争映画であまり描かれなかったことだと
思います。

街頭では、山本を「弱腰」と批判し、辞職を要求する弁士。
ところが、戦争が始まれば、「真珠湾攻撃を成功させた」山本五十六万歳を
同じ人物が叫んでいます。

語り部であり、「現代人」の代理人ともいえる玉木宏演じる若い新聞記者が
行きつけの居酒屋では、常連客が口々に戦争で景気が良くなることを期待します。
それをたしなめるのが原田美枝子演じるおかみさん。

新聞社の上司(演・香川照之)は、売れ行きのためにどんどんと戦争の記事を増やし、
国策に沿った勇ましい記事を書き進めていきます。
そして、この上司は最後の場面、日本が敗戦を迎えた戦後の場面で
高らかに「民主主義」を叫んでいるのです。
このあたりは、特定のモデルがいるというよりは、戦前戦後のメディアの
変わり身を象徴する人物だといえるのでしょう。

この記者は、山本から「自分の目と耳と心で広く世界を観なさい」と諭され、
上司の方針に疑問を持ちますが、結局はそれに抗することができず、
日本の敗北を伏せた報道をしなければならなくなります。
そして、焼け野原の日本で山本の言葉を思い返すのです。

「自分の目と耳と心で広く世界を観なさい」という言葉と
対照的に描かれていたのが、陸海軍の日独同盟推進派の軍人たち。
私の尊敬する人物である井上成美に関係する有名なエピソードですが、
柳葉敏郎がしっかり演じていました
(一部「室井慎次」が入っているという評価も聞きますがw)

同盟推進派が軍令事務局長の井上に詰め寄りますが、井上は
聞く耳を持たず、一冊のドイツ語の本を取り出し、読み上げます。
そして、その文章が、ヒトラーの「わが闘争」の日本人を見下した
一節であると告げます。
「そんなことは、『わが闘争』には書いていない!」と軍人たち。
それに対して井上は
「当たり前だ!『わが闘争』日本語訳ではこのくだりは削除されている。
だがドイツ語の原書にはしっかりと載っている」
と切り返します。

真珠湾攻撃は物語中盤で行われ、戦争がはじまり、お祭り騒ぎの日本ですが、
物語後半の山本は鬱々として、なんとか早く戦争を終わらせたいという
思いで悩んでいる姿が描かれました。
自分の目と耳と心で世界を見ている人だからこそなのでしょう。

映画の中では、おそらく意識して、現代の鏡像ともいえる場面が出てきました。
「首相がコロコロ変わる」「景気が悪い」「戦争でも起きてこの閉塞を吹き飛ばしてほしい」
セリフに表れただけでも、このようなものがあります。

これは、単に現代に通じる現象を引き出して警鐘を鳴らすというだけでなく、
あの戦争は特別なことではなく、今の自分たちにつながる日本人が
自ら選び、行った戦争だということを強調し、私たちに強く
問いかけるものであると思います。

そして、「自分の目と耳と心で広く世界を観なさい」という台詞は
まさに山本五十六から現代人へのメッセージであり、半藤氏から
若者へのメッセージであると思います。
「空気」や「雰囲気」に流されず、自分の目と耳と心で学び、考えると
いう姿勢は、言うは易く行うは難いものかもしれませんが、
先人たちが多くの犠牲とともに遺してくれたたいへん厳しい教訓を、
しっかり学ばなければならないとつよく感じました。
posted by 向川まさひで at 23:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 趣味 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
共産党の人が山本を持ち上げてどうする
南進政策を推進した山本に褒めるところはない
Posted by at 2014年02月19日 18:50
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、資源獲得のために行われた南方への侵略を指導した責任、またそのことが最終的に日本を焦土と化す敗戦につながったという責任は、免れえないと思います。

また、戦争指揮の在り方においても、私は疑問を持っており、英雄とはみていません。

しかし、軍隊という組織の中において、空気に流されず、脅迫や暗殺の危険にさらされながら、三国軍事同盟や対米開戦に理を尽くして反対し続けた姿勢は、評価すべきところがあると考えます。

そして、私がこの映画で最も評価するのは、記事に書いたように山本五十六の描写ではなく、彼を軸にして戦前、戦中の日本の世相を描き、それを鑑として、現代人に問いかけているところにあります。
Posted by 向川まさひで at 2014年02月19日 19:53
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