【「不正受給」の原因】
では生活保護に何ら問題はないのかと言えば、もちろんそうは思いません。証拠や証明が難しいのですが、不正受給が疑われるケースは私も見聞きしていますし、市民の方からの通報を受け行政に確認を求めたこともあります。太田県議が市議の時には上述のように打ち切りさせたこともあります。
かつて、大和高田市では、「生活保護請負」のような議員や有力者がいて、その人の口利きがあれば生活保護を必ず受けることができ、その見返りに票や金銭のやり取りがされていたという話を聞いたことがあります。今はもちろん、そんな単純な話は聞きませんが、しかしその残滓のような話は見聞きします。このように、基準にあてはまらないにも関わらず生活保護を受給させるような悪質な不正受給の背景には、議員・首長・地域の有力者などの癒着の構造があります。行政の中立性、市民や議会のチェックが機能していないことによる問題です。
また、このように最初から不正であるケースの他に、生活保護受給開始後に状況や条件が変わっても市役所が把握できず、不適切な給付が続くケースがあります。働きだしたのに収入を申告していなかった、いつのまにか家族と同居していたなどというケースです。故意に行っている悪質なものもあれば、認識不足による過失からきているもありますが、いずれも「不正受給」ということになります。このような事例は、生活保護受給者の生活実態の把握をきちんと行えていない、生活保護担当の体制の問題によるところが大きいです。河本氏のケースでも、15年間で数回しか相談、調査がなかったことが問題となっていますが、人員配置が国の基準を大きく下回っている大和高田市の場合では、担当者による定期的な訪問も、基準通りには行えていない現状があります。そのため私は先の三月議会で生活保護担当課の人員増を求めました。
このほか、不正受給には入らないことが多いですが、生活保護受給中に自立の意欲を失い、保護開始時の趣旨とずれる形で生活保護給付が続くことがあります。これも、きめ細かい相談や援助を行い、自立を促す支援がなかなか行えない生活保護行政の問題が大きいと思います。このようなケースでは、生活保護受給者に責任がないわけではありません。しかし、『貧すれば鈍する』というのが世の常です。ましてや仕事がなかなか見つからない時代にあって、生活保護を受けるなかで前向きな気持ちを失うこともあることだと思います。職業訓練やカウンセリングの機会の提供、市担当者によるこまめな訪問などの取り組みが必要です。
メディアによる一面的な生活保護「不正受給」批判では、こうした原因や対策について触れたものはほとんどなかったと思います。
他には、「不正受給に見える」ケースというもあります。よく「若いのに生活保護を受け、仕事をせずにぶらぶらしている」と言われるようなケースです。ところが、調べれば知的障害や重度の精神疾患で働くことが難しい人であることがあります。私が以前相談を受けたケースでは、知的障害に本人も周囲も自覚がなく、50歳を過ぎて失業してはじめて知的障害がわかった人などのケースがあります。このような場合、障碍者福祉を受けることも難しく、就労はかなり狭き門となります。またこのようなケースで、実は障害年金で生活しており、そもそも生活保護受給者ではなかったなどということもあります。
いずれにしても、生活保護の「不正受給」は、過失によるものも含め生活保護給付全体の0.1〜0.4%程度です。少ないからよいなどというものではありません。しかし、生活保護制度自体を揺るがすような性質のものではなく、ましてや「生活保護支出が増えているのは不正受給が多いから」などというようなのは明らかな誤解であり、また不正受給の背景には地方自治の腐敗の問題、不十分な生活保護行政の問題があります。保護受給者をバッシングして解決するものではありませんし、ましてやこれを口実に生活保護そのものを切り下げ、締め付けを行うようなことは明らかな間違いです。
生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法25条の砦です。今、これをさらに引き下げるということは、「健康で文化的な」を削ることになるのではないかと思います。尊厳を保てる「衣」「住」、健康を保てる「食」、知識を身に着けたり近所づきあいをする文化性をなくし、文字通り生きていくのに最低限の水準にしようということだと思います。しかしそれでは、生活保護受給者の自立心、自尊心を損ない、自立を回復するきっかけを失わせることになってしまいます。「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」(菅子)です。
援助だの自立心だの生ぬるいことを言うな、生活保護受給者は生活保護を一刻も早く外せるように追い詰め、追い立てるべきだ、その結果餓死しても本人の責任だ、親族は税金に頼らず自分たちの生活がギリギリになるまで扶養しろ、と考える人もいるでしょう。しかし、そう考えるならば、あまり声高に言うことではありませんが、世界でも日本でも、生活保護制度が「治安対策」の施策として行われてきたという側面を考慮すべきではないでしょうか。生活に窮した人が犯罪に走る危険性だけでなく、闇金融や暴力団などの闇経済が困窮者を取り込み社会を侵食する危険性を、生活保護制度は抑えているのです。
【解決策は】
これらの問題を踏まえ、では生活保護はどのようにすべきなのでしょうか。まずは生活保護のケースワーカーを全国的に増員し、生活保護受給者の把握や審査、相談・援助が十分に行える体制を作ることです。過失による不正受給を防ぎ、故意による不正受給を早期に発見して是正することができる体制、自立に向けて相談、援助が行える体制が必要です。また、行政の透明性、コンプライアンスを高め、議員や首長などの不当な介入やあるいは報復を防ぐことができるよう、倫理条例や法令順守条例などをはじめとした制度作りも欠かせません。
仮に、今言われているような受給審査のより厳正化、受給後チェック強化を行うにしても、今の人員配置状況では絵に描いた餅ですし、いくら厳しくしてもそのような圧力があれば、屈してしまう役所・担当者も少なくないと思います。
しかし、生活保護受給者が増え続ける一方であってはいくら増員しても足りません。生活保護受給者が増え続けている制度的問題にも手を付けるべきです。生活保護受給者の増大の要因は、高齢化と不況です。現行の制度下では当然の権利ではありますが、失業者や無年金高齢者が生活保護の対象となっているのは、本来あるべき姿ではなく、それぞれの普遍的な社会保障制度でまず支えられるべきであると思います。最低保障年金の確立や、失業保険、職業訓練の大幅拡充が必要と思います。
以前私は書きましたが「セーフティネットよりも『命綱』を」。生活保護制度にように、「落ちて」しまった人を助ける制度以前の「落ちない」ための制度の充実こそが必要だと思います。「落ちて」しまった人を引き上げるのは本人も周囲も大変ですが、「落ちない」命綱で支えれば、また戻るための精神的、経済的負担は小さくて済みます。『命綱』になる普遍的な社会保障制度の充実を図ることが、生活保護受給者を減らし、また不正をチェックしやすい仕組みを作ることになり、長い目で見れば生活保護の不正を減らし、社会保障支出を減らしながら貧困を是正していくことができると思います。
(追記)
私が生活保護の必要性が考えられる相談を受けた時の対応ですが、
生活の困窮についてお話を伺ったうえで、まず生活保護以外の可能性も考えます。
それから「生活保護の申請も含めて市役所に相談に行きましょう」と
市役所に同行します。ただちに生活保護の対象になるかどうかはともかく、
進退窮まったときに役所に助けを求めることは当然の権利であり、なんら
恥ずべきことではありません。そして、そうした相談に誠実に対応するのが
役所や議員の仕事であると思います。
その上で、ほかに方法がなく要件を満たしていれば生活保護を受け
生活の立て直しをはかることも当然の権利だと思います。
そして、そういう認識に立って生活保護行政が運用されるべきであり、
相談も審査もきちんと行わない門前払いような対応は許せません。
人員配置の改善などの取り組みなしに、生活保護に対する締め付けが強まれば、
おそらく俗に「水際作戦」と呼ばれるような、取りつく島なしの応対で
相談や申請をする気持ちさえなくさせるような傾向が強まると思います。
これは、生活保護の基準そのものが厳しくなること以上の人権侵害だと思います。
記事 拝読 しましたで 長いですな 熱意は 十分 伝わります。
トラバをありがとうございました。
お返事がものすごく遅くなってしまい申し訳ありません。
こちらからもトラバをお送りさせていただきましたが、このシリーズ全文転載させていただきました。
この件に関して読むべきエントリーやツイートがたくさんありましたので、まとめておこうかと思います。
そのときはまたトラバを送らせていただきます。
トラックバックありがとうございます。
大変上記記事は参考になりました。
今後ともよろしくお願いします。
労働者賃金の過剰な減少を誤魔化す為の手段!
という気がしないでもありません。
実際に政府はインフレ政策を敷いているにもかかわらずインフレ実現の場合における法定最低賃金引上げという不可欠と思える政策にはまったく踏み込んでいません。
今の政府が本当に国民の生活を考えているのか?単純に財界人の懐具合しか気にしてないのではないか?まあそりゃあ政治献金は殆ど財界からでてるんだし一般庶民はそんなに政治献金できないし〜〜なんてかんぐりたくもなる状況なんですよね^^;
>生活保護支給額削減に政府が踏み切った背景に
>労働者賃金の過剰な減少を誤魔化す為の手段!
>という気がしないでもありません。
おっしゃる通りだと思います。
いわゆる「正社員」のサラリーマンのみで見ても、非正規を含めた労働者全般で見ても賃金は減少していますし、そこに加えて社会保険料などの支出は増えています。
結果として生活保護との「逆転」が生じるのは当然です。
その「逆転」の原因を生活保護の基準に求めて、労働者の賃金や社会保障の問題から目をそらそうというのも、十分に考えられることだと思います。
うがった見方をすれば、最低賃金制度改善のための2007年最賃法改正時に付け加えられた「生活保護との整合性」ということを逆に利用されたのでは、とも思います。
安倍政権も最賃引きあげの意欲は一応示していますが、現行の最低賃金の水準そのものを問題とは考えていないようですし、消費税が上がれば少々の最賃引き上げも吹き飛びそうです。