2013年11月22日

特定秘密保護法の問題点@すべての国民に「スパイ容疑」が?

すべての国民が「スパイ容疑」の対象に?
「自衛隊基地のある港の風景をブログにアップしたら逮捕される」「行政の内部告発情報をシェアしたら逮捕される」「原発について情報収集したら逮捕される」特定秘密保護法に反対する議論で、こうした例示がされることがあります。これに対し、「そんなことはありえない」「誇大に言っているだけだ」という反論もあると思います。
そうしたことが起こりうるのかどうか、法案の中身に即して考えたいと思います。



@歯止めのない特定秘密

まず、「特定秘密」とは何か、ということについては、法案の「別表」に書かれてあります。「防衛」「外交」「特定有害活動」「テロリズム防止」の4つの分野が示され、具体的な事項が列挙されています。
 列挙されている事項をよく見ると、「その他」という表現が多用されています。この部分は、きわめて拡大解釈が可能なものとなっています。そして、これらの情報の中で「公になっていないこと」で「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれ」のあるものが特定秘密の対象であるとしていますが、きわめて主観的、あいまいな表現になっており、行政機関の手でいくらでも都合よく『秘密』にできるものになっています
 そして、「○○のおそれがある」ものというものは、何かを規制・処罰する法令で用いられる場合は、恣意的に使われることを避け、きわめて抑制的に使われなければなりません。こうした文面が使われるときには、官憲の専横と国民の抑圧を防ぐため、裁判等の手続きにおいて具体的な証拠を示して妥当性を証明することが求められますが、後述のようにこの秘密保護法ではそうした義務を行政に求めることは極めて難しいものになっています。
 そして、もっとも問題が多いのが、「特定有害活動」というものです。これは俗にいう「スパイ」を対象にしたものだと言われていますが、この定義がきわめてあいまいです。長いですがその文面を引用しますと、「公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるもの」と、きわめて広範かつ主観的なものです。またここにも「その他」「おそれのある」という表現が出てきます。さらに「特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究」が特定秘密の対象とされています。事実上、行政機関は「特定有害活動を防ぐため」と言えば、何でも秘密にし、なんでもできるということになります。もしそこで行政による非違行為があったとしても、それを告発したりすることはできないという、大変問題のあるものです。

 特定秘密保護法では、特定秘密を指定するのは「行政機関の長」であり、その秘密が妥当かどうかをチェックする機構はなく、また秘密に指定された事項は、情報提供できる相手がきわめて狭く明示されています。そして、何を秘密にしたかを報告あるいは説明する義務は行政機関に課されていません。秘密を指定する基準そのものも、公開されません。行政の判断で、「秘密」の対象は無制限に広がり、しかも「何が秘密か、それも秘密」ということになります。

A処罰対象も全国民へ

 罰則を定めた条文は22条から24条にあります。
 22条では「特定秘密の取扱い従事者」の処罰について定めています。この「取扱い従事者」には、国家公務員だけでなく地方公務員や、特定秘密に関して仕事を請け負ったり物品を納入する企業の従業員も含まれることになります。そして、「秘密を洩らした」こと自体が処罰の対象であり、外国やテロ組織の手に渡ったかどうかは問われていません。守秘義務が明記されている公務員や特定の資格者だけでなく、一般の民間人にまでそうした処罰を明記しているのは異例です。そして「秘密を洩らした」場合を処罰すると同時に、「過失」や「未遂」も処罰の対象としています。ここが大きな問題です。国が定める「特定秘密」は、何が秘密であり何を隠さなければならないのかを、これらの「取扱い従事者」全員に知らせる義務を持っていません。にもかかわらず、「過失」であっても処罰するというのは、バランスを欠いています。
 さらに、漏えいの「未遂」も処罰可能というのであれば、事実上、捜査機関は関係者をいつでも監視し、「未遂」の疑いで捜索することもできるということになります。付け加えれば、公的機関に関わる違法な行為を発見し、それを告発しようとした場合でも、それが特定秘密にかかわる内容であれば、告発は保護されるどころか処罰されることにもなります。

 23条では「管理を害する行為により特定秘密を取得したもの」に対する処罰が明記されています。この『管理を害する』という表現もきわめてあいまいです。『管理を害する』というのは、違法行為をさすものではありません。それは、この前段に「脅迫」や「不正アクセス」などが列記され、「その他管理を害する行為」と表記されているからです。つまり、違法なものに限定されないということです。さらにこの条文でも「未遂」の処罰が明記されています。解釈の使用によっては、入念な取材や議会での追及、繰り返しての情報開示請求など、行政機関が「邪魔だ」と感じるような行為すべてが、「管理を害する」行為とされる恐れがあります。私たち地方議員の調査活動も、対象になる可能性があります。

 24条では、それらの行為の「共謀」「教唆」「扇動」に対しての処罰規定です。表現は難しく書かれていますが、簡単に言えば「未遂」ですらない、「知ろうと思った」「知ろうとした」というレベルの行為にまで処罰の対象としています。ここには「過失」処罰規定はないので、「それが特定秘密だとは知らなかった」ということを証明すれば処罰されないと言えるかもしれませんが、「ない」ことを証明するのは悪魔の証明であり、極めて難しいものです。まして、何が特定秘密か、ということは裁判の段階ですら国は明らかにしなくてもよいのですから。

 関係者に念入りに取材したり(教唆)、ネット上で情報収集を呼びかけたり(扇動)、そうしたことを計画したり(共謀)することまでもが処罰の対象となります。マスメディアや市民運動の抑圧につながる危険性が高いです。政治的な意図のない、一般的な市民活動(例えば地域防災)や趣味のサークル活動での情報収集さえもが規制を受ける可能性があります。

 政府は「正当な取材は処罰しない」としていますが、何が正当化をきめるのは行政機関であり、しかも法案では「出版または報道の業務に従事する者の取材行為」という表現で対象を限定しており、フリージャーナリストや非専業の市民記者、あるいはしんぶん赤旗記者などは対象とならない可能性があります。
 さらに言えば、企業同士や企業と公的機関が仕事の一環で行う合法的な情報収集や情報交換もこれらの規制を受けることになります。警察や自衛隊関係の仕事を持っている会社とは、うかつに情報収集できない、うかつに聞けない、うかつに言えないということにもなりかねません。
 処罰と規制の対象は、実質的に全国民に向いているといっても過言ではありません。

B「適性評価」も歯止めなし

 特定秘密の取り扱い業務を行うものに対して、「適性評価」を行うことが明記されています。この適性評価では、一般的な賞罰歴だけでなく、「飲酒の節度」や「信用状態」など、きわめてプライバシー上重要な情報が含まれています。さらに、「特定有害行為」や「テロリズム」との関係に関する事項として、評価を受ける本人のみならず同居・別居の家族までもが調査されます。この場合「関係を調査される」ということは、住所や生年月日だけでなく、団体等への所属、政治思想なども調べられるということです。これは重大なプライバシーの侵害です。しかも、この「適性評価」後に疑義が生じた場合は、さらに継続的に調査をすることも認められており、その内容については何ら具体的な定めがありません。また評価対象者本人には一応の告知と「同意」がされることになりますが、その家族、親族、あるいは所属歴のある団体等に対しては告知もされません。
 「適性評価」の対象は、「特定秘密の取扱業務を行うもの」を対象としており、具体的には公的機関に関係する企業も、その下請け企業も、そこの派遣社員でも対象とされています。その家族もふくめて調査対象というのですから、その対象は膨大なものになります。

C被害時の救済規定がない

 上記「適性評価」の内容については、行政機関の長は目的外の使用を禁じられています。しかし、民間企業の従業員等に適性評価を行った場合には、事業主にはその結果が通知されます。その結果として、解雇や雇止めその他人事上の不利益を受ける可能性があります。調査の結果、その会社が当該の仕事を取れなくなった場合などはなおさらです。また、調査を受けること自体が仕事上の不利益につながる恐れもあり、調査の過程で個人情報が部分的にでも漏れる可能性もあります。
 さらに、処罰事項について、事実がなくても容疑で警察等により捜査を受け、結果的に検挙されなかった場合でも、捜査を受けたこと自体が社会的なダメージとなることがあります。
 秘密保護法案では、こうした場合においての救済規定がありません。わずかに適性評価についての「苦情の申出」が定められているのみであり、しかも行政機関は「誠実に処理」することを求められているだけです。何ら、行政の作為による被害の救済、被害の予防の役割をなしていません。むろん、行政不服審査や民事訴訟などを起こすことはできるでしょうが、「特定秘密」の前にはそれを立証することが一層困難であり、かりに立証できても多くの時間とお金がかかってしまいます。

D日本が「不自由な国」へ

 処罰規定と不利益回復困難、そして「何が秘密かも秘密」で「自衛策」さえ困難な状況の下では、真実を知ろうという気持ちをなえさせ、リスク回避のためにあらゆる活動が委縮してしまうでしょう。適性評価で「不適格」とされた人との友人関係や雇用関係も回避するような動きも起きるかもしれません。
 民間企業が通常行う情報収集や情報交換も注意しなければならなくなります。何らかの形で行政機関と関わっている会社なら、何かは分からないけれど特定秘密に触れているかもしれないからです。常にこちらの出す情報がその可能性がないか気にしなければなりません。しかし、仕事の上でこちらの情報を出し渋れば、取引がうまくいかなくなるかもしれません。
 マスコミも公的機関からのリークや告発は処罰を覚悟しなければ報道できないため、行政の不備や不正を明らかにする報道がきわめて難しくなります。内部告発も国会での公表も処罰されるため、これまで共産党が国会で取り上げて是正させてきた警察や自衛隊内部の問題も難しくなります。現在の日本は「報道の自由度」において先進国の中では韓国やイタリアとともに下位に属していますが、これがさらに低くなるでしょう。
 秘密保護法のもと、日本はずいぶん「不自由な国」になってしまいそうです。

E本当の狙いは、国民の委縮と情報統制

 これだけの厳しい法律ができれば、国内の機密保持が強化され、スパイやテロ活動は制圧されるでしょうか。答えは「否」であろうと思います。なぜならば、不正アクセスや偽計などで非合法的に機密を入手しようとするものに対して新たなプロテクトを行うものではなく、罰則が強化されたところでその手の人間たちを抑止することはできないからです。また、信頼関係を作り、合法的手段で接近するタイプのスパイなどに対してはどうでしょうか。そうした工作を跳ね返すには、何が守るべき秘密かを正しく理解した人が、強い警戒心と洞察力をもって注意する必要があります。しかし特定秘密保護法はそういうものではなく、何が秘密かも隠し、広範な人を規制の対象とするものです。これでは、信頼関係等を利用した情報の窃取を防ぐことはできません。「出版または報道の業務に従事する者の取材行為」は処罰しない、というマスコミ対策の条文も、「スパイ防止」の抜け道を作ったに等しいものです。
 つまり、秘密保護法は(漫画的表現ですが)「プロ」のスパイなどには効果が薄い法律であると言えます。
 この法律の本当の「効果」は、情報のブラックボックス化であり、また全国民に「スパイ容疑」の可能性を示し、監視・処罰・不利益回復困難という脅迫によって国民の言論や要求活動を委縮させること、そして正しい情報源への国民のアクセスを遮断し、行政機関から国民への情報伝達を「行政→国民」の一方通行に近づけていくことです。
 大戦中、日本は「治安維持法」のほか「国防保安法」(教唆や扇動の処罰などは秘密保護法とそっくりです)などを定め、国民に「防諜」をよびかけました。これらの取り組みは、本来の大義名分である「スパイの防止、摘発」にはあまり役立たず、周知のように多くの軍事機密が敵国に知られていました。これらが本当に効果を発揮していたのは、国民の情報統制においてです。
 「大本営発表」に代表される、国にとっての都合の良いことのみを「事実」「真実」として一方的に流し、逆に「日本が戦争に負けそうだ」などの真実を知るもの、知ろうとするもの、語るものを「スパイ容疑」「デマ流布」「扇動」などの容疑で摘発して、国の宣伝に沿わない言論を抑圧し、やがて多くの国民に国からの情報のみが真実と思いこませ、内心で疑問を持つ国民もものが言えない状況を作り出しました。それが第二次大戦での日本の被害を一層深刻なものにするとともに、戦時下の国民の間でいわれのない差別や疑心暗鬼を生じさせ、多くの悲劇を生みました。
 特定秘密保護法は、これら戦時下の各種立法と同様、「国を守る」と称して、その監視の目と処罰の刃は、他ならぬ日本国民に向けられているものです。そして、その「秘密」が守ろうとするのは、国民が暮らす「日本国」ではなく、政府・政権の権威にすぎないのです。
 本末転倒の「秘密保護法」に小手先の「修正」は意味がありません。
 「廃案」とし、国の秘密保護立法の議論は一から出直すしかありません。

posted by 向川まさひで at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 政策・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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